恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
勝利は目前だった。
だがそんな時が、一番危ないのかも知れない。
「だめっ! 下がって!!」
裕子がなんでもないリバウンドを奪われて、一気に速攻をかけられた。
早めに下がった萌音がコースを塞ぎにかかったけど、敵は萌音の目の前でボールを左サイドに振った。
さっき私と競り合った敵のポイントガードから、鮮やかな放物線を描いてシュートが放たれる。ボールはそのまま、ゴールリングに吸い込まれた。
土壇場での再逆転。しかもスリーポイント。
79ー77。残り時間1分30秒。
「まだ行ける! 攻めるよっ!!」
美樹が声を上げる。
私たちはひたすら前を向いて、走った。
私も全力で走った。
だって約束したんだ。桧山一尉に、絶対に優勝するって──。
敵はルールぎりぎりの24秒までボールを保持して、時計を進めて行く。
ようやくこちらにボールが渡った時には、残り時間は1分と数秒だった。
シュート一本で同点、スリーポイントシュートで逆転。
敵も固くゾーンで守って、速攻を許さない。時計の針が進んで行く。
裕子が放ったスリーポイントは、リングに弾かれて敵に奪われた。
敵は攻めずに時計を進めて、焦ったこちらのファウルを誘っている。
大丈夫、まだワンプレイ残ってる。
それに全てを賭ける。
相手のシュートがボードに跳ね返って、味方の手に渡った。
ラスト20秒、最後の勝負。
敵はポイントガードを中心に、鉄壁のゾーンディフェンスを敷く。
ワンプレイ、外したら負けだ。
ボールが萌音から美樹に回った──けど、焦った美樹が姿勢を崩した。
たちまち敵ディフェンスが殺到する。
私はワープするように、美樹のカバーに飛んだ。
ボールは私の手に。でもパスもドリブルも塞がれてる。
後5秒……!!
『頑張れよ、さくら。応援してる』
──絶対に勝つ! だって、一尉に約束したんだ……!!
私は反射的にバックステップを踏んで、後ろに飛びながら、スリーポイントラインの外でシュートを放った。
練習でも一度も試したことのない、フェイダウェイシュート。
ボールは大きな放物線を描いてゴールに飛ぶ。
「行けーっ!!」
タイムアップのブザーが鳴り響くなか、ボールはリングの中に吸い込まれて、ネットを揺らした。