恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
私は飛び上がるようにして、小桃さんを振り返った。
「嘘じゃないわ。さくらちゃんが落ち込んでるって桧山さんに教えてあげたら、向こうから言われたの。この時間この場所に、さくらちゃんを連れてくるようにって」
「桧山、一尉……」
「良かったね、さくら」
萌音が笑顔で祝福してくれる。
「さあ。泣いてないで、空を見上げてごらん。何かが始まるみたいよ」
私は涙を拭いて、紅く染まっていく空を見上げた。
ブルーインパルスの6機は、エンジンを轟かせながら私たちの頭上を通過して、海上に出た。
そして……。
インパルスの6機がフォーメーションを解き、旋回を始めた。
1機づつスモークを焚いて、同じ高度に旋回しながらスモークの線を引いていく。
まず1機が、大きな四半円の曲線を。
そして次の1機が、先の四半円に頂点を合わせて、角度をずらした四半円の曲線を。
次の1機がまた頂点を合わせて、角度をずらした四半円の曲線を。
真ん中で交差しながら、4機目が曲線を描き始める頃には、私にもインパルスが何をしようとしているか、分かっていた。
「さくらの、花だ……」
大空に咲いた、大きなさくらの花。
桧山一尉のメッセージだ。
そして6番目の機体、桧山一尉の機体が5枚のさくらの花びらを大きな円で囲って、大きなさくらの絵は完成した。
ぼろぼろ涙を流しながら空を見上げる私に、小桃さんが言った。
「桧山さんから伝言よ。『松島で待ってる』だって。良かったわね、さくらちゃん」
「……」
「宮城県の松島基地。ブルーインパルスの基地があるのよ」
私は海岸を駆け出して、北の空に遠ざかって行く青と白の機体に、大声で呼び掛けた。
「桧山一尉ー!
私、必ず会いにいきまーす!!
すごく綺麗になって、優さんよりも綺麗
になって、あなたに会いに行きまーす!!
もう二度と逃がしませんから、覚悟してくださいねー!!」
遠ざかる桧山一尉の機体が、手を振るように、翼を大きく揺らしたのが見えた。