恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜
参道の脇には小さな神池があって、小さな太鼓橋が申し訳程度に架かっている。
その橋の上に立って、欄干に手を置いた。
水面は闇に溶け込んで、見えなかった。
「何が、いけなかったのかな……」
私は、一生懸命やってきたつもり。
苦しくても辛くても、歯を食いしばって頑張れば、必ず報われると信じてた。
なのに……。
「さくら」
急に名前を呼ばれて、驚いて声のした方を向くと、暗がりに白いシャツ姿がぼんやり見えた。
「哲也……」
「さくら、なんで無視するんだよ」
哲也はそう言いながら駆け寄って、小さな太鼓橋の上で私と並んだ。
「……あんたには関係ないでしょ」
どこかで待ち伏せしてたのか、ずっと後をつけてきたのか、どっちにしても鬱陶しい。
哲也は幼なじみだった。付き合いの長さだけなら萌音よりも長い。
小さな頃はそれなり仲が良かったはずなのに、中学にあがる頃から急に私のすることに、あれこれ口出しするようになってきた。
やれ、髪を伸ばせ。
スカートが短い。
誰某と気安く口をきくな。
昨日どこに行っていたんだ……etc。
その挙げ句に「俺のことどう思う?」なんて訊かれても、鬱陶しいとしか答えられない。
そんなことが続いて、最近はずっと哲也のことを無視していた。
荒い息をしている哲也に、私は言った。
「なんでついてくるの?」
「さくら、お前が心配なんだよ」
私はきっと、睨みつけた。
「心配してくれなんて頼んでない。私のことは放っておいて」
「素直になれよ、さくら」
さすがにカチンときた。
「素直って何よ、あんたに私の何が分かるって言うの?!」