恋のナンバー507〜一尉、私のハートを墜とさないで〜

 驚いたような顔を見せる哲也に、訳も分からず、苛立った。

「いいわ。そんなに聞きたきゃ聞かせてあげる、私の素直な気持ち」

 私は哲也を見下すように、

「哲也、あんたが嫌いよ、大っ嫌い。もう二度と、私の視界の中に入らないで」

 それで哲也は、尻尾を巻いて逃げ出すと思ったんだけど……。

 哲也はぽかんとして、私のことを見つめていた。
 逆にこちらが居たたまれなくなって、私は「帰る」と短く言って、身を(ひるがえ)した。

 その時だった。
 ものすごい力で、腕を掴まれた。

「痛っ──!」

 哲也は私を力づくで引き寄せると、一瞬泣くように(わら)うように顔を歪めて、強引に口を近づけてきた。

 ムードも何もない、痛くて怖いだけ。
 私のファーストキスは、そうして奪われた。

 私は身をよじって逃げ出そうとしたけど、太鼓橋の継ぎ目に足を取られて、橋のたもとに仰向けに倒れ込んだ。

 哲也が覆い被さってくる──。

 助けて、と、声にならない声を上げた時だった。

「おいっ、何してる!!」

 低く、よく響く声だった。
  
 哲也はびくっと身を震わせると、弾かれたように私から離れて、玉砂利を蹴散らしながら走って行った。

「大丈夫か」

 声の主が近付いて来る。
 
 私は倒れた拍子に背中を打って、息ができなかった。
 声の主に抱き起こされ、背中を撫でられて、ようやく呼吸ができるようになったけど──、

「やだ! 離して!!」

 私は声の主の腕の中で、傷付いた猫のように暴れた。
 ()って、引っ掻いて、蹴っ飛ばしたかもしれない。

 それでも声の主は、私を優しく抱き締めたまま、黙って私に、打たれて蹴られるままになっていた。

 やがて、私は打つのを止めた。
 代わりに声の主の厚い胸板に顔を付けて、声をあげて、泣いた。

 それが、私と桧山(ひやま)一尉の出会いだった。
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