あなたが社長だなんて気が付かなかった〜一夜で宿したこの子は私だけのものです〜
映画を観終わると私を抱き上げ、ソファに座らせてくれる。
「お茶入れてきていい?」
私が頷くと冷蔵庫から麦茶を取り出し入れきてくれた。
買ってきたお菓子もお皿に乗せて持ってきてくれた。
「意外と面白かったな」
「あ、うん。そうですね」
「ハハハ、雪は正直だな。集中できなかったか?」
図星だ。
あの後も彼の息や鼓動を直接感じて映画どころではなかった。
面白かったとは思うが内容全てが頭に残っているかと言われるとそうではないと思う。
「このお菓子美味しいぞ。ほら」
私の口元に運んできてくれる。
口を開けてと言わんばかりの仕草にまたドキドキしてしまう。
彼にこんなに甘やかされるような女じゃないのに。
こんなに素敵な彼の隣には綺麗な人が並ばないとバランスが取れない。私の1DKの狭い部屋にいる人じゃない。
「礼央さんはどうしてこんなになくしてくれるんですか? あの日のことはもう忘れましょう。私はあなたと会えて本当によかった。それでいいじゃないですか」
「俺は誰にでも優しいわけじゃない。あの日から雪に惹かれているからだ」
「礼央さんに惹かれてもらえるようなことは何もなかったと思います。礼央さんと話せて私は前向きになれたけれど、礼央さんにとっては何もなかったですよね。だからあの日のことはもう忘れてください。月曜からはただの社員です」
「それは無理だ。どうして俺の気持ちを否定する? 雪に惹かれているのは紛れもない事実だ」
いつの間にか手を握られていて私の目を見てそう訴えてくる。
信じていいの?
「あの日から正直怖くて誰とも付き合う気はないんです。礼央さんだからとかではなくてもう誰とも……。裏切られるのも去られるのももう嫌。でもそんな私に赤ちゃんが来てくれて、この子がいたら無敵だって思えてならないんです。相手はいなくても私ひとりで育てていこうって決意したんです」
「俺は裏切らない」
「言うのは簡単なんです。未来はわからないからもう傷つきたくないんです。だから、ごめんなさい」
私は彼に頭を下げた。
いつまでも先延ばしにしていてはいけないと思ったから正直な気持ちを伝えた。
月曜になれば社長と一社員に戻らなければならない。
あの日社長だと気がついたなら一緒にお酒を共にすることはなかった。
知ってしまった今はもうこれ以上進むことはできない。
裏切らないと言われてもいつかは、と思うと踏み出せない。
「俺は裏切らないし、雪に惹かれているのも本心だ。すぐに結果を出さずに俺を見てくれていたらいい」
そう言うと彼は話題を変えた。
彼と何気ない話をしているとあっという間に時間は過ぎ、夕飯まで彼に作ってもらった。
社長の彼がこんなに狭いキッチンでご飯を作るなんて想像もつかなかったが鼻歌交じりでフライパンを振る彼を見ていると私まで楽しい気持ちになってきた。
出来上がったのはチンジャオロースと中華スープにクラゲのサラダ。
家で人に作ってもらったご飯を食べるなんて久しぶり。しかも中華はずっと食べていなかったので匂いだけで食欲をそそられる。
「いただきます」
小さなテーブルに今度は向かい合わせに座ると手を合わせた。
「美味しい!」
「だろう? 昔アルバイトしていたからそこそこ料理に自信はあるんだ。昔ながらの定食屋でなんでも出してたからある程度はできる」
「え? 礼央さんアルバイトしたことがあるんですか?」
「あるに決まってるだろう。大学の頃は毎日のように色々やってたよ」
定食屋でフライパンを振っていたなんて想像がつかなかった。
「親父は厳しくてさ。社長は俺じゃなくても構わないって。でももしあとを継ぎたいなら社会勉強をして実力で上がってこいってさ。だから若い頃から色々なことをしてきたよ。遊んでばかりの学生生活ではなかった」
「そうなんですね。礼央さんは私と違って煌びやかな世界の人だと思ってました」
まさか古い定食屋で働いていたなんて想像もしなかったが今の地位にいると言うことは実力が伴った証なのだろう。
私はいつもに増して食が進みあっという間に食べ終えた。
ふたりでキッチンに立ち片付けをすると礼央さんは帰る支度をした。
「また明日来てもいいか?」
私の顔を伺うように見た。
私は思わず頷いた。
すると彼は破顔し、帰っていった。
「お茶入れてきていい?」
私が頷くと冷蔵庫から麦茶を取り出し入れきてくれた。
買ってきたお菓子もお皿に乗せて持ってきてくれた。
「意外と面白かったな」
「あ、うん。そうですね」
「ハハハ、雪は正直だな。集中できなかったか?」
図星だ。
あの後も彼の息や鼓動を直接感じて映画どころではなかった。
面白かったとは思うが内容全てが頭に残っているかと言われるとそうではないと思う。
「このお菓子美味しいぞ。ほら」
私の口元に運んできてくれる。
口を開けてと言わんばかりの仕草にまたドキドキしてしまう。
彼にこんなに甘やかされるような女じゃないのに。
こんなに素敵な彼の隣には綺麗な人が並ばないとバランスが取れない。私の1DKの狭い部屋にいる人じゃない。
「礼央さんはどうしてこんなになくしてくれるんですか? あの日のことはもう忘れましょう。私はあなたと会えて本当によかった。それでいいじゃないですか」
「俺は誰にでも優しいわけじゃない。あの日から雪に惹かれているからだ」
「礼央さんに惹かれてもらえるようなことは何もなかったと思います。礼央さんと話せて私は前向きになれたけれど、礼央さんにとっては何もなかったですよね。だからあの日のことはもう忘れてください。月曜からはただの社員です」
「それは無理だ。どうして俺の気持ちを否定する? 雪に惹かれているのは紛れもない事実だ」
いつの間にか手を握られていて私の目を見てそう訴えてくる。
信じていいの?
「あの日から正直怖くて誰とも付き合う気はないんです。礼央さんだからとかではなくてもう誰とも……。裏切られるのも去られるのももう嫌。でもそんな私に赤ちゃんが来てくれて、この子がいたら無敵だって思えてならないんです。相手はいなくても私ひとりで育てていこうって決意したんです」
「俺は裏切らない」
「言うのは簡単なんです。未来はわからないからもう傷つきたくないんです。だから、ごめんなさい」
私は彼に頭を下げた。
いつまでも先延ばしにしていてはいけないと思ったから正直な気持ちを伝えた。
月曜になれば社長と一社員に戻らなければならない。
あの日社長だと気がついたなら一緒にお酒を共にすることはなかった。
知ってしまった今はもうこれ以上進むことはできない。
裏切らないと言われてもいつかは、と思うと踏み出せない。
「俺は裏切らないし、雪に惹かれているのも本心だ。すぐに結果を出さずに俺を見てくれていたらいい」
そう言うと彼は話題を変えた。
彼と何気ない話をしているとあっという間に時間は過ぎ、夕飯まで彼に作ってもらった。
社長の彼がこんなに狭いキッチンでご飯を作るなんて想像もつかなかったが鼻歌交じりでフライパンを振る彼を見ていると私まで楽しい気持ちになってきた。
出来上がったのはチンジャオロースと中華スープにクラゲのサラダ。
家で人に作ってもらったご飯を食べるなんて久しぶり。しかも中華はずっと食べていなかったので匂いだけで食欲をそそられる。
「いただきます」
小さなテーブルに今度は向かい合わせに座ると手を合わせた。
「美味しい!」
「だろう? 昔アルバイトしていたからそこそこ料理に自信はあるんだ。昔ながらの定食屋でなんでも出してたからある程度はできる」
「え? 礼央さんアルバイトしたことがあるんですか?」
「あるに決まってるだろう。大学の頃は毎日のように色々やってたよ」
定食屋でフライパンを振っていたなんて想像がつかなかった。
「親父は厳しくてさ。社長は俺じゃなくても構わないって。でももしあとを継ぎたいなら社会勉強をして実力で上がってこいってさ。だから若い頃から色々なことをしてきたよ。遊んでばかりの学生生活ではなかった」
「そうなんですね。礼央さんは私と違って煌びやかな世界の人だと思ってました」
まさか古い定食屋で働いていたなんて想像もしなかったが今の地位にいると言うことは実力が伴った証なのだろう。
私はいつもに増して食が進みあっという間に食べ終えた。
ふたりでキッチンに立ち片付けをすると礼央さんは帰る支度をした。
「また明日来てもいいか?」
私の顔を伺うように見た。
私は思わず頷いた。
すると彼は破顔し、帰っていった。