夏樹先輩、好きでした。
卒業
先輩との出会い
「卒業証書、授与」
少しひんやりとした体育館に、先生の声が響く。
まだ冬の寒さが残る、3月初旬。
晴天に恵まれた今日は、私が通う高校の卒業式。
3年1組の生徒から順に担任の先生に名前を呼ばれ、体育館の壇上に上がって校長先生から卒業証書を受け取る。
「久遠 夏樹」
私が1年間片思いしている人の名前が呼ばれ、思わず胸が高鳴る。
私は、先輩の姿を目に焼き付けようと、在校生の座席から先輩のことを見つめる。
先輩が歩くたびにサラサラの黒髪が揺れ、いつも以上にピンと真っ直ぐ伸びた背筋はきれいだ。
卒業証書をもらい、壇上前の階段からおりてくる先輩の顔はとても凛としていた。
ああ、夏樹先輩……今日もかっこいいです。
──ねぇ、夏樹先輩。
今日で先輩への片思いからも卒業するから。
今だけは……まだ先輩のことを好きでいさせてください。
あなたを、私の初恋の人の姿を……この目にしっかりと焼き付けさせてください。
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