夏樹先輩、好きでした。
ここで先輩と会うのは、いつぶりだろう。
おそらく、初めて会ったとき以来だ。
あれ以来、先輩を一方的に見ることはあっても、面と向かって話すことはなかったから。
憧れの先輩を前に、突如私に緊張が走る。
「花梨ちゃん、いつもありがとうね」
おばさんから、パンが入った紙袋とお釣りを渡される。
「どうしたの? 1年生ちゃん。パン受け取りなよ」
先輩に紙袋を受け取るよう促される。だけど、これはさすがに受け取れない。
だってあの500円は、久遠先輩のお金だから。
「いえ。先輩に、悪いです」
「悪くないよ。俺は、そこに落ちてた500円をただ拾っただけ」
私は、ブンブンと首を横にふる。
ねぇ、先輩……。
どうしてそんな嘘までついて、私に親切にしてくれるんですか?
「後輩が、先輩に遠慮すんなって。そうだなぁ……これは、キミが放課後いつもバスケの応援に来てくれているお礼ってことで」