夏樹先輩、好きでした。
……うそ。
まさか、私がバスケ部の練習を見に行っていることを、先輩が知ってくれていたなんて。
「キミ、今日もクリームパンを買おうとしていたってことは、それ気に入ってくれたんだ?」
「……っ、はい」
先輩にクリームパンを譲ってもらったあの日から、1ヶ月が経っているから。
てっきり、先輩は私のことなんて忘れているかと思っていたのに。
自分のことを覚えてもらえていた。
先輩の中で、私はちゃんと存在していたんだ。
その事実に驚くとともに、嬉しさがじわじわと広がっていく。
「このクリームパン、本当に美味しくて。
私、大好きになりました」
クリームパンも……久遠先輩のことも。
だって今、先輩と話しているだけでこんなにも胸が弾んでいるんだから。
「そっか。俺もこのクリームパンはすげー好きだからさ。一緒だな。同じファンが増えて嬉しいよ」
先輩が、いつの日かと同じように優しく微笑む。
「久遠先輩。本当にありがとうございます」
「いいよ。お腹空いてるだろ? 早く教室戻って食べな? 1年生ちゃん」
「はい……! 失礼します」
私が、紙袋を抱えて教室へ戻ろうとしたとき。
「あっ、そうだ。ねぇ、キミ」