夏樹先輩、好きでした。
なんだろう?
先輩に呼び止められた私が、後ろを振り返ると。
久遠先輩が、私のことを真っ直ぐ見つめていた。
先輩と目が合って、ドキリとする。
私は、先輩から顔をそらした。
先輩にそんなにじっと見られたら……恥ずかしいですよ。
徐々に、自分の頬が熱くなっていくのが分かる。
「あのさ。今更かもしれないんだけど……
キミの名前、なんて言うの?」
「え?」
今、先輩が私の名前を聞いた?
「これからもずっとキミのこと、1年生ちゃんって呼ぶのは失礼かな? と思って」
「えぇっと。かっ、花梨……です」
「え?」
うぅ。緊張のせいからか、思わず蚊の鳴くような声になってしまった。
ここは、先輩に自分の名前を覚えてもらうチャンス。だから、しっかり言わないと。
「私の名前は、荻野 花梨です!!」
「荻野 花梨……そっか。荻野 花梨ちゃんね。覚えとくわ。じゃあ、またね」
ひらひらと手を振り、先輩は私と反対方向へと歩いていった。