夏樹先輩、好きでした。
突然、聞き覚えのある低い声に呼び止められた。
「なつ、き……先輩」
私が声のしたほうを向くと、夏樹先輩が壁に寄りかかるようにして立っていた。
彼の姿を目にした途端、心臓がバクバクと大きな音を立て始める。
会いたくなかったのに……どうして、先輩がそこにいるの?
「ねぇ、花梨ちゃん。なんで最近、俺の部活の応援に来ないの? 俺、キミに何かしたかな?」
ううん。先輩は何も……していない。
「ねぇ、なんでさっきから黙ってるの? 何か言ってくれなきゃ俺、分かんないんだけど」
少し苛立ったように話す先輩。
「……もうすぐ、バスケ部の引退試合があるんだけど」
夏樹先輩は、3年生だから。夏の大会を最後に、部活を引退する。
「花梨ちゃん、さすがにそれは見に来てくれるよね?」
「……っ」
先輩には、エリカさんがいるのに。
『見に来てくれるよね?』って、どうして私にそんなこと言うんですか?
夏樹先輩の気持ちが、分からない。