夏樹先輩、好きでした。


突然、聞き覚えのある低い声に呼び止められた。


「なつ、き……先輩」


私が声のしたほうを向くと、夏樹先輩が壁に寄りかかるようにして立っていた。


彼の姿を目にした途端、心臓がバクバクと大きな音を立て始める。


会いたくなかったのに……どうして、先輩がそこにいるの?


「ねぇ、花梨ちゃん。なんで最近、俺の部活の応援に来ないの? 俺、キミに何かしたかな?」


ううん。先輩は何も……していない。


「ねぇ、なんでさっきから黙ってるの? 何か言ってくれなきゃ俺、分かんないんだけど」


少し苛立ったように話す先輩。


「……もうすぐ、バスケ部の引退試合があるんだけど」


夏樹先輩は、3年生だから。夏の大会を最後に、部活を引退する。


「花梨ちゃん、さすがにそれは見に来てくれるよね?」

「……っ」


先輩には、エリカさんがいるのに。


『見に来てくれるよね?』って、どうして私にそんなこと言うんですか?


夏樹先輩の気持ちが、分からない。


< 33 / 60 >

この作品をシェア

pagetop