夏樹先輩、好きでした。
「えっと、あの……これ、キミの?」
夏樹先輩の大きな手にあるのは、私がいつもスクールバッグにつけている、通学定期が入った小花柄のパスケースだった。
右肩にかけたスクールバッグのほうに目をやると、いつもそこにあるはずのパスケースはなく、チェーンだけがゆらゆらと揺れていた。
……間違いない。
「それ、私のです」
私は、俯いたまま答える。
どうしよう。先輩の目、見れないよ。
「そっか、良かった。駅に着くまでに渡せて」
そうだ。定期券を落としたことに気づかず駅まで行ってしまっていたら、そこから来た道を戻って探さなきゃいけなかったから。
夏樹先輩に……助けてもらっちゃったな。
「拾ってくれて……ありがとうございます」
「どういたしまして。はい、どうぞ」
先輩が私にパスケースを渡してくれるとき、先輩の長い指が一瞬だけ私の手に触れて、ドキッとした。