夏樹先輩、好きでした。
椎菜に以前、『花梨の気持ちは、伝えなくても良いの?』と聞かれたとき。
私は、『もう良いんだ』と答えた。
エリカさんという彼女がいる夏樹先輩に告白したとしても、フラれることが目に見えているから。
私はもう先輩に、面と向かってこの気持ちを伝えるつもりはないと。
そう、思っていたはずなのに……。
『花梨ちゃん、おはよう!』
頭の中を過ぎったのは、先輩の明るく優しい笑顔。
再び先輩と同じ時間を過ごすうちに、私の気持ちは変わってしまったのかもしれない。
本当にこのままずっと、先輩への想いを心に閉まっておいても良いの?
我慢したままで良い?
……ううん。良いわけがない。
やっぱり、後悔だけはしたくないから。
先輩と両想いだとか、エリカさんから先輩を奪おうだとか、そんなことは思わない。
本当に純粋に、この想いだけでも先輩に伝えられたら……。
彼女がいる先輩に、迷惑をかけない形で告白するには……そうだ。
私は、先輩の高校卒業式の日。
一か八かの、賭けに出ることにした──。