夏樹先輩、好きでした。


私の通う高校の制服は、学年によってリボンとネクタイの色が違う。ちなみに私は1年だから、赤のリボンだ。


「ねぇ、キミ。クリームパン好き?」

「え? っと、はい! 大好き、です」

「そっか。じゃあ、それはキミに譲るよ」


そう言うと先輩は、持っていたクリームパンを私に渡してきた。


「どうぞ?」

「でも、先輩に悪いですよ」

「いいよ。俺、3年だし。キミはまだ、ここのクリームパン食べたことないんだろ? それ、すげー美味いから。一度食べてみな」


もしかして、私が遠慮しないようにそう言ってくれてるのかな?


ふわりと笑った先輩の顔が、とても優しくて。私もつられて、笑顔になった。


「おっ。良い笑顔じゃん。そのクリームパン食べたら、きっともっと笑顔になれるよ」

「はい。ありがとうございます! 先輩。
それじゃあ、いただきますね」

「ああ。じゃあな、1年生ちゃん」


先輩がクリームパンの代わりにカレーパンとサンドイッチをお会計すると、ひらひらと手を振り去っていった。


私は先輩の後ろ姿が見えなくなるまで、しばらくそこに立っていた。


……あの先輩は、誰なんだろう。


また、会えると良いな。


< 7 / 60 >

この作品をシェア

pagetop