夏樹先輩、好きでした。
私の通う高校の制服は、学年によってリボンとネクタイの色が違う。ちなみに私は1年だから、赤のリボンだ。
「ねぇ、キミ。クリームパン好き?」
「え? っと、はい! 大好き、です」
「そっか。じゃあ、それはキミに譲るよ」
そう言うと先輩は、持っていたクリームパンを私に渡してきた。
「どうぞ?」
「でも、先輩に悪いですよ」
「いいよ。俺、3年だし。キミはまだ、ここのクリームパン食べたことないんだろ? それ、すげー美味いから。一度食べてみな」
もしかして、私が遠慮しないようにそう言ってくれてるのかな?
ふわりと笑った先輩の顔が、とても優しくて。私もつられて、笑顔になった。
「おっ。良い笑顔じゃん。そのクリームパン食べたら、きっともっと笑顔になれるよ」
「はい。ありがとうございます! 先輩。
それじゃあ、いただきますね」
「ああ。じゃあな、1年生ちゃん」
先輩がクリームパンの代わりにカレーパンとサンドイッチをお会計すると、ひらひらと手を振り去っていった。
私は先輩の後ろ姿が見えなくなるまで、しばらくそこに立っていた。
……あの先輩は、誰なんだろう。
また、会えると良いな。