夏樹先輩、好きでした。
「あっ、おかえり! 花梨。遅かったね」
「ただいま、椎菜」
私は教室の自分の席に着くと、しばらく何も手つかずボーッとしてしまう。
「ちょっ……花梨! 戻ってくるなりボーッとして、どうしたの?」
椎菜のよく通る高い声すらも、右から左へと抜けていく。
あの先輩の優しい笑顔が、さっきからずっと頭から離れない。
「ねぇ、花梨。早く食べないと、あと少しで昼休み終わっちゃよ!?」
……はっ! いけない。
椎菜に昼休みが終わると言われ、ようやく我に返った私。
袋を開封し、クリームパンを口へと運ぶ。
「ん〜、美味しい」
クリームパンは、カスタードたっぷりで。
甘くて、食感が柔らかくて。
さっきの先輩みたいに、すごく優しい味だった。
「花梨、めっちゃ笑顔じゃん。そのクリームパン、そんなに美味しいの?」
「うん。おいしいよ」
この日食べた購買のクリームパンは、今まで食べたどのクリームパンよりも美味しくて。
私に幸せの魔法をかけてくれた。
あとから思い返してみれば、このときから私はすでに先輩のことが気になり始めていたのかもしれない──。