凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
1 人肌が恋しい夜
 若月(わかつき)総合病院の入院病棟にやってきた私は、ナースステーションで祖母のお見舞いである旨を伝え、教えられた病室に向かった。

 病室のドアをノックして静かに開け、「失礼します」と小声で言う。
 入室すると祖母は春の陽気が降り注ぐ窓際のベッドの上で横になっていた。

「こんにちは」

 四人部屋の病室内で、ほかの患者さんに会釈しながら祖母に近づく。
 私が来たことに気づいた祖母は、穏やかに閉じていた両目を開けうっすらと微笑んだ。

「紗衣(さえ)、来てくれたんだね」
「うん。おばあちゃん、調子はどう?」

 祖母は二日前に胆のうのポリープを切除する手術を終えたばかり。本当はもっと早く駆けつけたかったのだけど、仕事の引き継ぎで忙しくて今日になってしまった。

「うん、いい調子よ。あら? なんだ紗衣、手ぶらなのねぇ」

 祖母に指摘され、私はとっさに自分の手元に目を落とす。

「てっきり紗衣が来れば美味しいバームクーヘンが食べられると思って、期待してたんだけど」

 おどけたような表情で、祖母は肩を竦めて言った。でも、顔色は白く、声もいつもより弱々しい。まだ手術の疲れが残っているようだった。

 きっと優しい祖母のことだから、孫の私に心配をかけまいと明るく振る舞ってくれているのだろう。

「おばあちゃんったら食いしん坊なんだから。次に来るときは必ず持ってくるからね」
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