凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 ええと、レストランでたまたま居合わせた見ず知らずの人に、誕生日を一緒に祝ってもらうってこと?ひとりぼっちだから、家族の代わりに?

 こっそり振り向くと、柊矢さんとやらは食事を終え、エスプレッソを飲んでいる。その姿が様になっていて、映画のワンシーンのようだった。

『渡してから聞くのも野暮だが、このあとなにか予定でもあったか? 誰かと一緒に過ごす、とか』

 不意に叔父の顔が頭に浮かび、私は立ち上がるとシェフに耳打ちした。
 
「シェフってもしかして、叔父からなにか頼まれてます?」

 男性との出会いを父が仕組んだんじゃ……と推理した私を、シェフはただきょとんとした顔で見返した。どうやら違うようだ。

「今日お誕生日なんですね」

 私が訝っているうちに、柊矢さんがこちらに来て言った。

「あ、はい……」

 鏡を見なくても、自分が赤い顔をしていると想像できた。
 なぜなら赤ワインがいい感じに回ってきているのと、そばで見たら王子様みたいな柊矢さんの外見に圧倒され、ぽうっと頬が熱くなったからだ。

 ほどよくセットされたサラサラの黒髪、切れ長の綺麗な二重瞼、スッと高く整った鼻梁。薄く形の整った唇。
 シャープな顎の美しい輪郭に、それらのパーツは黄金比で配置されている。

 白いシャツにグレーのパンツというシンプルな装いだけれど、身長180センチ以上ありそうなスタイルのよさで、まるでモデルさながらの見た目。
 
「紗衣ちゃん、ロウソク消して」
「あ、はいっ」

 シェフに促され、つい柊矢さんに見惚れていた私はハッとして、急いで火を吹き消す。
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