凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
5 恋煩いの処方箋 柊矢目線
 美咲が医局に入ってきたのは、午前の手術を終えて一息吐いたときだった。

「お昼これだけ?」

 つまらなそうな顔で俺のデスクを見下ろす。
 置いてあるのはコンビニで買ったヨーグルトと、紗衣がプレゼントしてくれたタンブラー。残念ながら中身は空だ。

「コーヒー飲みに行きましょうよ。あなたの彼女がいるカフェに」

 美咲はわざとらしく片眉をぴくりと上げる。

「いや、いい」
「どうして?」

 惚けた顔をした相手に、俺はマウスを操作しながらうんざりしてため息を吐いた。

「変に誤解されたりして悲しませたくないんだよ」

 俺の言葉に美咲は驚いたのか、大袈裟に目を見開いた。

 紗衣は美咲と俺との仲を気にしている。
 開院記念パーティーでの俺と兄の会話から誤解させてしまい、恋愛感情などはないときちんと説明した。
 その言葉を信じてくれているとは思うけれど、念の為。もう二度と、思い違いであっても彼女を傷つけることがないように。

「柊矢がそんなに彼女を思いやる発言をするなんて……信じられないわ」

 よほど驚いたのか、美咲は口を大きく開けた。

「昔は付き合った彼女をほったらかしにして全然長続きしなかったのにね」

 そして嫌味を言い、腕を組んで意味ありげに目を細める。

「あの噂、本当なのね」
「噂?」

 呟いて、俺はパソコンの画面から目を離した。

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