凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「柊矢が懐柔されるなんてね」
「俺が懐柔?」
「病院中の噂なのよ。先週、泣いてる松本さんをあなたが必死で慰めてたって」

 この病院内にはどうやら噂好きがいるようで、あることないことすぐに流布されるから厄介だ。
 まあ、美咲が言う状況には心当たりがあるのだが……。

「そのメール、亮真から?」

 勝手に人のパソコン画面を覗いて、美咲は表示された受信メールを盗み見た。
 兄から届いたメールには、俺の結婚式には必ず帰国する、楽しみにしているという旨が記されている。

「あーあ。あなたたち兄弟がふたりとも私より先に幸せになるなんて。許せないわ」

 美咲は唇を尖らせてムッとした。
 幼い頃から負けず嫌いで、俺と兄の兄弟喧嘩に参戦してはよく張り合ってきた美咲らしい発言だ。

「ところで、紗衣さんとは出会ってまだ二ヶ月なんでしょ? その短い期間で結婚の決め手になったのはどんなところなの?」

 美咲の質問に、俺は首を捻った。

 紗衣が妊娠しているとわかってから一週間。
 もちろん、そのことがきっかけのひとつにはなったが、たとえ妊娠していなくても俺は紗衣と一緒になりたいと思っていた。

 決め手がなんなのか、なんて、言葉では説明がつかない。
 初めて会った日の、嬉しそうに食事をする自然な笑顔も、家族の話をするときのどこか淋しげな表情も。ベッドの上で真っ赤になって恥ずかしそうにする仕草はもちろん、俺の体を労ってくれる気遣いまで、紗衣に惹かれた部分といえば枚挙にいとまがない。

 それに、理屈じゃなく言葉や仕草が可愛くて、いとおしいと感じる。
 ギュッと抱きしめたときの腕の中に宿る温かさが心地よく、体同士がぴったりとフィットして安心する。まるで吸い寄せられるように、俺の本能が紗衣を欲するんだ。
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