凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 長かった一日の勤務が終わり、日勤の日はなにもなければ午後六時には帰宅できるので、カフェでの閉店作業を終えた紗衣と一緒に帰れる。
 職員用の出入り口で待っていると、紗衣が若い女性スタッフと談笑しながら出てきた。

「紗衣」
「柊矢さん、お疲れ様です」

 一日の疲れも吹っ飛ぶ笑顔の紗衣の後方で、女性スタッフが俺にぺこりと一礼した。

「早乙女さんだよね、お疲れ様」
「お、お疲れ様です!」

 俺が近付くと、早乙女さんはビクッと肩を上げた。

「いつも紗衣がお世話になってます。今後ともよろしくね」

 怖がらせないように優しい声色で話したつもりだったが、早乙女さんは焦ったように何度も頷いた。

 本当であれば今すぐに仕事を辞めて家でおとなしくしていてほしい。紗衣は以前貧血で職場で倒れたので、心配が尽きない。

 来週末にはうちに引っ越してくる。そうしたらずっと家にいてくれないか、と内心期待している。俺が不規則な仕事だからこそ、家に帰ればいつでも紗衣の顔が見られるなんて幸せ以外のなにものでもない。

 それに、実は俺はチェリーズコーヒーの店長が嫌いだ。大嫌いだ。
 一度牽制したにも関わらず二度までも、紗衣を口説きやがった。あれには本当に腹が立った。
 紗衣の一挙手一投足を、可愛い笑顔を奴に見られてるのかと思うと虫唾が走る。早く奴の目が届かない場所に紗衣を隠してしまいたい。

「では、お先に失礼します!」
「早乙女さん、また明日ね」

 紗衣が手を振る姿を見て、早乙女さんや店長は仕事中の紗衣も見られるんだな、と思うと、無性に面白くない。嫉妬だ。
 なんだかここ数日、独占欲に拍車がかかっている。

「紗衣、仕事疲れないか?」

 しかも、俺は過保護にもなった。
 ずっと立ちっぱなしだから、お腹に負担がかからないだろうか。俺は医師という立場を忘れて純粋に心配になった。
< 104 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop