凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「大丈夫ですよ、柊矢さん。無理せず仕事を続けたらいいって先日先生も仰ってたじゃないですか」
「ああ、そうだったな」

 先日、大学の同期が実家を継いでいる産婦人科のクリニックを紗衣が受診した。
 同期は穏やかな女医で、初めての経験に緊張している紗衣に寄り添って話をいろいろ聞いてくれた。

 次の受診日も仕事の都合がつけば一緒に行きたいと思っている。
 それであんまり仕事がきつそうなら、同期を買収して紗衣に仕事を休むように説得させようか、なんて、自分勝手な考えに我ながらちょっと引いた。

「レストラン・イリゼに行くのは約二ヶ月振りですね! 楽しみです」

 駐車場で俺の車に乗り込み、シートベルトを締めた紗衣が笑顔を弾けさせる。

 あの日、紗衣の誕生日の夜。

 俺はいつものようにレストラン・イリゼで夕飯を済ませた。斜め先のテーブル席には女性客がひとり。嬉しそうな顔で料理を頬張っている。

『松本編集長から今日は紗衣ちゃんの誕生日だって聞いて、焼いたんだ』

 入瀬さんのこの言葉に、俺の頭の中で光がピカッと明滅した。

 胆のうの手術で入院中の松本さんというおばあちゃんが、孫娘の自慢をしていた。
 うちの病院のカフェで働くことになったサエという名前でとにかく可愛いんだ、気立てがいいとか頭がいいとか特になにが得意ってのはないけれど、思いやりがあって優しい子なんだ、と。しかも今日誕生日だとか。

 そしてそのおばあちゃんの息子さんが地元の新聞社の編集長。手術後の説明を聞きに来たときに一度会っていた。
< 105 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop