凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 入瀬さんの一言で、偶然居合わせた彼女が松本さん自慢の孫娘だと一致した。
 正直回診中に自慢話を聞かされたときは困惑したが、一緒にケーキを食べてるうちに俺は彼女から目を離せなくなっていた。

 自慢したくなる気持ちもわかる。コロコロ変わる表情が新鮮で可愛い。次はどういう面持ちになるのか気になるし、もっと近くでほかにどんな表情をするのか、いろんな彼女を見ていたい。

 それで俺は食事を終え、帰ろうとして踵を返し、背中を向けた彼女をレストラン・イリゼの前で呼び止めていた。

 回想しながらハンドルを切り、近くのパーキングに向かう途中神社の前を通りかかった。

「わあ!」

 助手席の紗衣が歓声を上げた。

「きれい……。夜にライトアップしてるんですね」

 神社では見頃を終えようとしている藤棚が電飾に照らされて幻想的に輝いていた。

「ああ、去年あたりからやってるみたいだな」
「そうなんですね。見頃に来たかったです」

 窓の外を見ながら、紗衣が残念そうに呟く。

「来年は見に来ようか」

 俺が提案すると、紗衣は満面の笑みをこちらに向けた。

「そうですね! 来年も再来年も、柊矢さんと一緒に見に来たいです」

 そのときはふたりじゃなくて三人になってるんだな、と思うと、胸の奥が震えてなんだか体が熱くなった。
 今からこれじゃあ、出産に立ち会いでもしたら泣いてしまうかもしれないな。

「ここの神社にはご縁があるんです。戌の日もお参りに来たいです」

 紗衣が目を細めて嬉しそうに話す。

「そうやってたくさんの思い出を、柊矢さんと新しく綴っていきたいなぁ」

 あまりにもいとおしくて、俺はシフトレバーに置いていた左手を伸ばして紗衣の手を握る。
 ジャケットのポケットの中で、指輪が入った箱が窮屈そうに動いた。




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