凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 普段誘われて飲みに行くとしたら居酒屋やカフェバーが多いので、ピアノの生演奏が流れているラグジュアリーな空間は初体験。

 ラウンジは、ダウンライトの落ち着いた光が高級感を醸し出している。

「素敵なお店ですね」

 私は言いながら、キョロキョロと控えめに周りを見回した。すると、周囲の席の女性から目線を向けられているのに気づいた。

 みんな、柊矢さんを見てる……?

「飲み物、なににする?」

 カウンターに並んで座った柊矢さんに聞かれ、私はハッとした。

「飲みやすいカクテルがいいです。お酒、あまり詳しくなくて」
「了解。飲みやすいのだとフルーツ系はどう? オレンジとか。あ、アプリコットとかは?」
「あ、好きです」

 柊矢さんが店員に注文している間も、ちらちらと見られている視線に気圧された。

 たまたま隣にいる私は、どんな関係に見えるだろう。さすがに彼女だと釣り合わないよね。

 なんだかそんなふうに値踏みされているようで居心地が悪い。

「さっきの神社、よく行くの?」

 飲み物が届き、乾杯してから柊矢さんが言った。

 ここに来てから、口調がフランクになっている。距離が縮まったみたいで耳がくすぐったい。

「はい、昔よく行ってました。私、地元がこっちで転勤で離れてたんですけど、この春戻って来たんです」
「そうなんだ」

 カウンターに肘をついた柊矢さんは、長くてきれいな指を絡めて組んだ。

「柊矢さん、は?」

 名前を呼ぶのは正直躊躇われた。気軽に名前を呼んでもいいのかな、って。

 だって、相手はつい数時間前に会ったばかりで、私など到底釣り合わないほど魅力的な人だ。ふたりきりで飲んでるのがまだ信じられないって思うのはもう何度目だろう。

 けれども柊矢さんは私の戸惑いになど気づく様子もなく、楽しそうにウイスキーのグラスを傾けた。
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