凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「俺もこっちなんだ。もしかしたら昔、街中で擦れ違ったことがあったかもしれないな」
「はい……」

 そうだとしたら、絶対に覚えてる。こんなハンサムな人、一度見たら忘れるわけないもの。
 さすがに口には出せないけれど、私は心の中で確信する。

「じゃあ、地元で誕生日を迎えるのも久しぶりなんだ」

 柊矢さんに問われ、私は頷いた。

「はい。夜に生まれたので、そろそろ二十九歳です」

 オレンジ色のカクテルはとても飲みやすくて、するすると喉を落ちる。

「適齢期を過ぎつつあるので、叔父はお見合いさせたがるし、祖母はひ孫が見たいとか言うし」

 同期や後輩はどんどん結婚し、退職していく。自分だけ取り残された感覚になってしまう。

「でも私は、独り身なので」

 人一倍家族に憧れているのに、ひ孫どころか彼氏さえいないなんて。本音を言うとかなり寂しい。

 最近よく考える。祖母はいつまで元気でいてくれるんだろう、とか。
 考えたくないけど考えてしまう。

 この街に帰ってきて、母の面影を感じる機会が多いのもあり、ナーバスになっているのかもしれない。

 しょんぼりと肩を落としていると、隣の柊矢さんまで巻き込んでどんよりと暗い気分になっていることに気づいた。
 
「……って! 私ってば変なこと言ってすみません!」

 アルコールの許容範囲を超えてしまったかもしれない。初対面の人に管を巻くなんて迷惑過ぎるよね。

 そう思ったんだけど……。

「いや、そろそろ家族とか考える歳だよね。わかるよ」

 柊矢さんはきまりが悪くて顔を隠す私を優しくフォローした。

「……私、今日が誕生日だってことすら忘れていたんです。叔父がレストラン・イリゼを予約してくれなかったら、たぶん今頃ひとりで家にこもってたと思います。だけど、柊矢さんに出会えてとっても素敵な時間を過ごせました。ありがとうございます」
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