凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 柊矢さんがフロントに行く間、私はエレベーターホールで待っていた。
 まさかこんなことになるなんて……と心の中で呟く。もう三回目。

 こんな大胆な行動に出るなんて、自分が自分じゃないみたい。

 ただ人肌が恋しいのかもしれないし、誕生日に出会った素敵な男性ともう少し一緒に過ごしたいのかもしれない。
 こちらに向かって歩いて来る、そんな日常的な姿でさえ目が離せないほど魅力がある柊矢さんを見て、たぶん後者が強いと思った。

「行こうか」

 カードキーを持った柊矢さんにエスコートされ、エレベーターに乗り込む。高層階へ一気に上った。

 ドキドキと心臓が飛び出そうなくらいうるさいのは、柊矢さんがさっきからとても自然に私の腰に手を回しているから。

 手慣れてる……?
 そりゃ、そうだよね。こんなに素敵なんだもん。私ばっかり余裕がない。

 部屋に着き、脱いだコートを腕にかけた私は手持ち無沙汰に部屋の隅に突っ立っている。

「紗衣さん、水飲む?」

 ミニバーからミネラルウォーターを取り出し、窓辺のソファセットに移動した柊矢さんに手招きされ、「はい!」と答えた声が裏返る。

 ヤバい、緊張しすぎ!恥ずかしい……。

 スイートルームはとても広く、存在感のあるキングサイズのベッドの奥が一面ガラス張りになっていて、都会の夜景が一望できる。

 私はおずおずと柊矢さんのもとまで近づいた。

「わぁ、きれい……」

 キラキラと輝く夜景を見て、思わずため息が漏れる。
 宝石箱をひっくり返したような黄金の光がまばゆく広がる光景は圧巻で、感動するほど。

「ずっと見ていたいな」

 心の声が口から漏れた。
 美しい景色を目に焼き付けておきたい。

「どうぞ、心ゆくまで」

 窓に張り付いて目を輝かせている私に、柊矢さんがやや呆れた声で言った。

 そんな彼からミネラルウォーターを受け取って一口喉を潤す。緊張がほぐれてきたな、と思った矢先。

「って言いたいところだけど、そろそろ俺のことも見てくれないかな」

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