凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
2 再会に戸惑う朝
 翌朝目覚めた私は、狐につままれた気分だった。

「いない……」

 隣ががらんとしたキングサイズのベッドの上で上体を起こし、私はぽつりと呟いた。

 柊矢さんは私が寝てる間に帰ったようだ。シーツと上掛けには、まだぬくもりが残っているような気がする。

『悪いけど、ここで止める余裕ない』

 本当に私の身に起こったこと?夢だったんじゃないかしら。

『……たまらないな。可愛い過ぎ』

 思い出して赤面する。まるで耳元で囁かれているかのように錯覚した。

 すると昨夜の甘い刺激がつぶさに思い出され、次第に全身が粟立つ感覚に襲われる。

「夢じゃないんだ」

 ベッドから立ち上がろうとしたら、太ももやお腹に鈍い痛みを感じた。まだ体のいたるところに、柊矢さんが触れた余韻が残っている。

 痛みを我慢して立ち上がり、キョロキョロと周りを見回す。昨夜ぞんざいに脱いだはずの洋服は、きちんとハンガーに掛けられていた。

 ずっと見ていたいと切望した美しい夜景が広がっていた窓の外は、霧がかって水色に濁っている。朝の街並みを見下ろして着替えると、頭が現実に慣れてきた。

 ホテルを出て、一晩泊まった部屋を見上げ、すごいところに泊まったんだなぁと他人事みたいに思う。

 もう会うこともないんだ……。一生思い出に残る誕生日だったな。

 日が昇る前で空気はひんやりしている。霧で幻想的な雰囲気の朝の街をとぼとぼ歩いた。

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