凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「松本さん、おばあちゃんが入院してるって言ってたっけ?」

 お客様が途切れたとき、橋野店長が私に言った。そういえば引き継ぎで来たときに橋野店長に話したっけ。

「はい、そうなんです」
「もう少しで休憩だから、お見舞いに行ってきたらどう?」
「そうですね」

 橋野店長に笑顔で答え、今日こそはバウムクーヘンを買って行かなきゃと頭の中でメモをする。

 店内の壁に掛けられたアナログ時計を確認し、祖母の喜ぶ顔を想像してほっこりしていたとき、突然周囲がざわめいた。

 店内で飲食中のお客様たちが皆一様にひとつの方向に目を向けている。
 ……どうしたんだろう?

「騒がしいですね、なにがあったんでしょう」

 ドリンク担当の早乙女さんも不思議そうに店内を見回している。

 もしかして具合が悪くなったお客様がいるのでは、と不安に思ったとき、目の前に人影が現れた。

「いらっしゃいませ」

 パッと顔を上げた瞬間、信じられない人物の顔が目に入った。

 それは今朝、もう会うこともないと確信したはずの人物。柊矢さん、だ。

「っ、」

 呼吸が止まる。
 心臓の音が大太鼓のようにドクン、と強く鳴った。

 他人の空似?人違いじゃ……とも思ったが、カウンター越しの至近距離で昨夜散々接近した人物を見間違うはずがない。

 私が硬直している間に、柊矢さんは軽くメニューに目を落とし、私を見てニッと口角を上げた。

 ……どうしてここに?

 少し冷静になってみると、柊矢さんは青いスクラブの上に白衣を羽織っている。

 どんな仕事をしているんだろうーー昨夜気になった柊矢さんの素性が明かされる。

 まさか。
 ここの、お医者さん?
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