凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「ご、ご注文を、承ります」

 やっと呼吸を思い出し、むせるのを堪えて私は言った。 

 変な発音になってしまった……。でも、これだけ放心状態で絶句しなかった自分を褒めたい。

「トールのブレンドコーヒー、テイクアウトで」

 低くてよく通る声で柊矢さんは言った。ベッドで私の名前を呼んだのと同じトーン。

「……かしこまりました」

 昨夜の情景を思い出してつい、言葉に詰まった。私の思考を知ってか知らずか、柊矢さんは意味ありげにクスリと笑う。

 柊矢さんの態度は私とは対照的で、私を見てもまったく動じていないし、むしろ楽しんでいる。
 まるで最初から、私がここで働いていると知っていたみたいに。

 そんな余裕のある顔を直視できなくて、私が目を泳がせてるうちにドリンク担当の早乙女さんが作り始めた。

 橋野店長の視線を感じて振り返ると、彼は大げさなジェスチャーでレジを指さしている。

「あ! お、お会計失礼します」

 お会計を忘れるなんて!気が動転しているとはいえ、あり得ない失態だ。

 私はあたふたしながら柊矢さんからお金を頂いた。
 あまりの慌てぶりにお釣りの小銭を落としそうになったけど、柊矢さんが瞬時に手のひらでバウンドしながら受け取る。

 まもなくブレンドコーヒーが出来上がり、早乙女さんがカウンターに置いた。

「お待たせしました。ありがとうございました」

 頭を下げて柊矢先生を見送る。
 目眩を覚えるほど、頭は激しく混乱していた。

「どうしたの? 松本さん。急に電源切れたみたいになるんだもん、心配したよ」

 私の失態っぷりに橋野店長が心配そうに言うと、早乙女さんがすかさず口を挟む。

「柊矢先生があまりにもイケメン過ぎてびっくりしちゃったんじゃないですか?」

 柊矢先生……。やっぱりここの医師なんだ。

「い、いえ、すみませんっ!」

 私は急いで頭を下げて謝罪する。
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