凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「見惚れて会計を忘れる気持ちもわかりますよ! お客様も皆さんざわついちゃってましたもんね」
「そりゃあ、学会でも注目されている若手の名医な上に、あのモデル並みの外見だからね。うちの病院外にもファンが多いらしいよ」

 早乙女さんの言葉に同意するように橋野店長が言った。

「そ、そうなんですか」

 さっき店内に沸き起こったどよめきは、柊矢さんの登場に対してだったんだ。
 そんなに人気があるんだ。たしかにあの容姿なら納得できる。

 それに名医だなんて、すごい人なんだ……。

 でも私にとっては同じ建物内で働いているなんて、気まず過ぎる存在だ。毎日こんなにドギマギしていたら仕事にならない。

「その、柊矢先生は、よくうちの店に来られるんですか?」

 おそるおそる尋ねた私に、早乙女さんは食い気味で答える。

「柊矢先生が来るなんて初めてじゃないですかね⁉ 近くで見れて良かったー!」

 どうやら早乙女さんは柊矢さんのファンらしく、ガッツポーズをして喜ぶ姿を橋野店長はやれやれといった眼差しで見ていた。

 依然心拍数は異常なまま、なんとか接客の仕事に集中し、休憩時間を迎えた。
 私は忘れずにバウムクーヘンを買い、祖母の病室へと足早に向かう。

 祖母と一緒にお茶でも飲んで、予想もしていなかった事態に混乱している頭を少し休めよう。
 そう期待して病室のドアをノックした。
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