凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「失礼します」

 呟いて、入室した瞬間私はギョッとした。両肩がびくんと大きく飛び跳ねる。

「紗衣」

 祖母が微笑みながら手招きしているが、なかなか一歩が踏み出せない。
 その原因は、ほかでもない。

「ちょうど今手術していただいた若月先生が来てくださってたんだよ」

 まさかの再会が一度ならず二度までも!
 ていうか、え?

 若月先生……?

「こんにちは」

 祖母に紹介された柊矢さんは、私を見ても顔色ひとつ変えず、飄々と言った。 
 私は金魚のように口をパクパクさせながらたどたどしくお辞儀をする。

「術後の経過は順調です。明日予定通り退院できますよ」

 笑顔で祖母に言った柊矢さんは「では」と付け足すと、一礼して私の真横を通り過ぎた。
 私だけがわかるくらい、片眉にアクセントを付けて微笑んで。

「ごめんおばあちゃん、ちょっと待ってて!」

 ベッドに座る祖母にバウムクーヘンを手渡すと、私は身を翻して病室から出て行った柊矢さんのあとを追った。

「えっ、紗衣⁉」

 祖母の驚く声が背中越しに聞こえたけれど、振り向かずに駆け足で向かう。

 ナースステーションを通り過ぎた柊矢さんの後ろ姿に思いきって声をかけた。

「あのっ」

 すると、立ち止まった相手はおもむろに振り返り、立ち尽くす私の腕を掴む。

「え? ちょっと……!」

 待ってくださいと言いかけたとき、柊矢さんは『相談室』とプレートに書かれた部屋のドアを開け、私を引っ張って入室させた。
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