凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 そして、会議用テーブルとパイプ椅子が並んだ誰もいない小さな部屋で呆然とする私の腕をパッと離す。

「体、大丈夫?」

 前触れなしにそう問われ、私はゆっくり瞬きした。

「へ? か、体?」
「顔が赤いな」

 言いながら柊矢さんはぽかんとする私の顔を正面から覗き込む。

「熱は……?」

 囁いた矢先、私の頬を手のひらで包み込み、自身の額を私の額にこつんと当てる。

「ん、ないな」
「っ……」

 頬を緩め、穏やかに笑った柊矢さんの表情がすぐ近くで見えた。

 途端に心臓がドキドキとうるさくなる。静かな部屋で、こんなに接近していたら柊矢さんの耳にも届きそうなくらい。
 鎮まってほしいけど制御できない。

「……あ、あのっ!」

 ただ見つめ合っているとそわそわして間が持たない。
 私は勢いで口を開いた。

「柊矢さ……、柊矢先生は、私のことを」
「昨日みたいに先生はつけなくていいよ」
「えっ⁉ あ、はあ」

 話を遮られ、私が曖昧に頷いたとき、柊矢さんの携帯が鳴った。

「悪い、ちょっと失礼する」

 断りを入れてから電話に出た柊矢さんは、話しながら相談室を出て行ってしまった。

 私がチェリーズコーヒーで働いていることや、祖母が担当患者であると知っていたのか聞こうとしたんだけど。

 忙しいだろうし、無理そうだ。
 諦めよう……。

 取り残された私もそっと相談室を出て、祖母の病室に戻る。祖母は既にバウムクーヘンを食べ終わっていた。
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