凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 それにしても今日は驚いてばかりだ。
 柊矢さんがこの病院の医師で、祖母の担当医であるうえに、院長先生の息子さんだなんて。

 若月柊矢さん、っていうんだ……。

「す、すごいね。うちの店のスタッフたちはみんな若月先生のことを名前で呼んでたよ」
「おばあちゃんも今度から名前で呼ぼうかしら! お近づきの印に」
「お近づき?」

 存分に嫌な予感がして、背中の辺りがゾッとする。

「おばあちゃんね、入院して早々に若月先生にも紗衣を自慢しておいたのよ! もしかしたら今日の出会いから恋に発展するかもしれないよ。人生なにがあるかわからないんだから」

 悪びれる様子もなく、嬉々として話す祖母を目の前にして、私は文字通り頭を抱えた。

 なんとなく想像がつく。おそらく祖母は看護師さんにしていたように、私の名前や職場を柊矢さんに話したんだ。

 そして柊矢さんはレストラン・イリゼで偶然会った私の名前をシェフの口から聞き、気づいたのかもしれない。
 あの、孫バカおばあちゃんの孫か……って。

「もう、勝手にそんなことしないでよ」

 ため息混じりで呟く。
 出会いは今日ではなく昨日だし、しかも恋とかする以前にベッドインしちゃってるし……。なんて、口が裂けても言えない。

 祖母の発言を訂正しつつも、最後の言葉には心から同意した。
 一夜の過ちだけでも自分の身に起こるなんて信じられないのに、相手が同じ建物内で働いていて、更には祖母の担当医。本当に人生ってなにがあるかわからないんだな、と思った。 
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