凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 翌日、祖母は昼食後に退院した。
 私は橋野店長にお願いし、退院の時間に合わせて休憩を取らせてもらった。

 叔父が送迎に車を出してくれるというので、祖母を待合室で待たせ、荷物を運ぶのを手伝っていると。

「そういえば紗衣、レストラン・イリゼはどうだった?」

 下りのエレベーターを待つ間、叔父に問われた私は両肩をビクッとつり上げた。

「へえ⁉」

 素っ頓狂な声が出てしまった。
 ちょうどエレベーターの扉が開いたので、私は足早に乗り込む。

「えっと、すごく美味しかったよ」

 平静を装って答えると、両手の荷物を肩に掛け、一階のボタンを押した。

「あそこの料理は家庭的なフランス料理で、肩肘張らずに楽しめるから叔父さんも気に入ってるんだよ」

 隣に立った叔父が嬉しそうに言ったので、私は心から同意して頷いた。

「うん、キッシュとか美味しかったな。ケーキまで焼いてもらったよ」
「そうか、誕生日ケーキか。まさか、ワンホールをひとりで食べたとか言わないよな?」

 叔父が冗談混じりで言ったので、私は片手をブンブンと横に振る。

「まさか! 柊矢さんとふたりで少しずつ食べ……」

 言いかけて、マズいと思ったときにはもう遅い。

「シュウヤさん?」

 復唱しながら叔父が目を見開く。
 その驚きの表情は次第に冷やかすようなニヤニヤ顔に変化した。

「なんだ、彼氏と行ってたのか。水臭いな、言ってくれればよかったのに」
「ち、違うって!」

 慌てて否定するも、ちょうど一階にエレベーターが着き叔父は先に出て行ってしまう。

「叔父さん、ねぇ話を聞いてよ」
「ようやく紗衣もいい人と誕生日を過ごすようになったんだな。叔父さん感慨深いよ」
「だから違うんだって!」

 軽やかな歩調で鼻歌混じりに駐車場に向かう叔父になんとか追いつき、誤解を解くのに必死な私。
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