凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「えっと、でも私もこっちに戻って来たのが久しぶりなので、お店とか詳しくないですよ」

 お役に立てなくてすみません、と頭を下げながら発した声が遮られる。

「そっか、じゃあ俺んちで飲む? 松本さんの歓迎会やろうか」

 軽い調子で誘った橋野店長に、私は目をぱちくりさせた。

「え……店長のお宅で、ですか?」

 歓迎会をやるならさっき早乙女さんがいるときに言ってほしかった。
 ふたりで、しかも橋野店長のご自宅でなんて、正直言って気が引ける。

「今後一緒に働くためにも親交を深めておいたほうがいいと思うんだよね。俺んち近いし、全然遠慮はいらないし」

 私が答えに躊躇っている理由を勘違いして、橋野店長は鷹揚に笑った。

 全然遠慮とかじゃないんだけど……。上司と部下と言えど一応男女だし、ふたりきりって身構えてしまうのは考え過ぎ?

 私の歓迎会をしてくれるのならそのご厚意に甘えるべきなのだろうか。
 それにここで断れば、今後一緒に働くうえでわだかまりが残ったりする?

「さ、そうと決まれば行こう!」

 ぐるぐると考えてるうちに、橋野店長は強引に私の腕を引っ張った。驚いてつんのめりの体勢になる。

「え⁉ ちょ、ちょっと待って下さい!」

 大きな声で止めようが、橋野店長は動じない。
 私を引きずるように歩き、少しだけ振り向くとニコリと柔和に微笑んだ。

「橋野店長!」
「引き継ぎの際はバタバタしたから、松本さんとはゆっくり話したいと思ってたんだ」

 橋野店長の中では歓迎会は決定事項らしい。こんなに強引な人だとは思わなかった。
 年齢より若く見える人好きのする笑顔も、この状況だとなんだか怖く感じてしまう。

 私は両足を突っ張ってなんとか立ち止まると、グッと喉に力を入れた。そして。

「あの! 私、申し訳ないですけどっ」

 言いかけた瞬間。
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