凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「え、大丈夫ですっ」
「いいから、ほら。雲行き怪しくなってきてるし」
柊矢さんは私の背中に手をやると、ポンと軽く押した。
促されて一歩踏み出し、空を見上げれば、たしかに頭上には暗い雲が流れてきている。
「あの、私に話っていうのは?」
私は歩きながら隣の柊矢さんをおずおずと見上げた。
「祖母の件でしょうか?」
今日無事に退院できたけれど、ひょっとしたらもう検査結果が出ていて、祖母には先に言えない悪い結果なのでは、という暗い考えが頭をよぎる。
しかし、柊矢さんから返ってきたのは私の予想に反する答えだった。
「ああ、あれは口実だよ」
ピタリと足を止めたのは、車には疎い私でも知っている海外の高級車の前。
「ごめん、おばあちゃんの話かと思って心配したよね。悪かった」
柊矢さんは躊躇いなど一抹も見せず、即座に私に頭を下げた。
「きみが俺の目の前でほかの男に連れ去られるところを、見ていられなかったんだ」
言いながら、指先で鼻を擦る。
少し照れた表情を見せられると、こちらまで気持ちが伝染して恥ずかしくなってくる。
こんな甘い言葉を男の人に言われたのは初めてだ。
なにか言わなきゃ……。なにか、気の利いた返しをしなくちゃ。
そう思うのに私のポンコツな頭にはなにも浮かばなくて、こそばゆい時間だけがただただ過ぎてゆく。
「いえ……、祖母の話じゃないならいいんです。今更なんですけど祖母が大変お世話になって、どうもありがとうございました」
私はペコッと頭を下げた。