凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 すると柊矢さんは穏やかに微笑み、私を助手席にエスコートした。

「うん。まだ検査結果が残ってるからね。松本さんには話したけど、来週外来で説明するから」
「はい」

 ドアを開けてもらい、躊躇っているうちに雨が降ってきた。
 このままでは柊矢さんも濡れてしまうので、私は戸惑いながらも助手席に乗り込む。

「すみません、わざわざ送っていただいて。傘を持っていないので助かりました」

 運転席に乗り込み、エンジンをかけた柊矢さんは私の言葉に首を左右に振った。

「いや、俺が勝手にやってるから。紗衣さんは気にしないで」
「そんな……ありがとうございます」
「紗衣さんちはどの辺?」
「えっと、南小学校の近くなんですけど」

 シートベルトを締め、車が発進すると私はアパートまでの行き先を柊矢さんに説明した。

 こんなに乗り心地のよい高級車は初めてだし、なにより柊矢さんと密室にふたりきりというシチュエーションはかなり緊張する。

 柊矢さんはそんな肩をカチコチに強張らせる私に、時折信号で止まると柔らかい笑顔を向けた。
 そして信号が青になると、真剣な横顔でハンドルを握る。

 そんな一挙手一投足に釘付けになった。
 どの場面を切り取っても全部カッコいい。こんな完璧な人がいるんだ……。

 やがてアパートの近くに着くまで、私の鼓動はフロントガラスに打ち付ける雨の音にも負けないくらい速くて強かった。
< 37 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop