凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
3 名前のない関係
 新しい職場に赴任して一週間が過ぎた。
 柊矢さんは毎日、コーヒーを買いに来てくれる。

 私がレジ担当のときは「お疲れ様」とか、「今日は傘持ってきた?」とか、他愛のない世間話を少しだけする。

 一方私がドリンク担当のとき、橋野店長がレジ担当だと緊張感が伝わってきてピリピリした空気が流れるのがかなり気まずい。

 駐車場での一件以来、橋野店長は私になにか言いたげにソワソワしているし、なんとなく気を遣っている態度で居心地が悪い。

 ある日、柊矢さんファンの早乙女さんにレジ担当を代わってほしいと頼まれたとき。ドリンク担当の私は、ブレンドコーヒーを紙コップではなくタンブラーに入れて柊矢さんに手渡した。

「うちの店のタンブラー、冷めにくい優れものなのでよかったら使ってください」

 ステンレス製で色はマットな黒。お洒落だし、サイズも持ちやすいものだし、毎日買いに来てくれるのなら持ち込みで三十円引きになるからお得だ。

 そう思ってプレゼントしたんだけど、柊矢さんは真顔で私とタンブラーを見比べている。

 ……差し出がましかったかな?

「あの、こないだ送っていただいたお礼です」

 不安になって小声で付け足すと、柊矢さんはふっと頬を綻ばせ目を細めた。

「お礼なんていいのに。でも嬉しいから、これから使わせてもらうよ」

 真っ直ぐに私の目を見て、とても優しく微笑む。

「ありがとう」

 笑顔の柊矢さんと対面して、私は頬が熱くなるのを感じた。きっと真っ赤だ。

「いえ……」

 それを柊矢さんに悟られたくなくて、俯いた私はようやっと聞こえるほどの声で答えた。

 嬉しいと素直に伝えてくれると、こちらのほうが何倍も嬉しくて胸がほっこりする。
 勝手なことしてご迷惑かと思ったけど、思いきってプレゼントしてよかった。

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