凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「松本さんって、柊矢先生と仲良いんですね!」

 タンブラーを片手にした柊矢さんが店から去った直後、早乙女さんが噛み付くような勢いで私に言った。

「仲が良いと言うか……、祖母の担当医ですから話はしますよ」

 困惑しつつもなんとか平静を装って無難に返答する。

「おばあさんの担当医ってだけで、あんなに毎日フレンドリーに話しますかね? それにタンブラーまでプレゼントしてるし、かなり親しげに見えますよ〜」

 けれども早乙女さんは詮索めいた言い方をして、私を疑惑の目で見た。

「えっと、それはっ……」

 うまい言い訳が思いつかなくて焦りが顔に滲んだとき、ちょうどお客様がご来店されたので話はそこで途切れる。私は内心安堵した。

 早乙女さんに変に勘繰られたり、橋野店長に気を遣われたりしないように、これからは誤解されない行動を取らないと。
 と、決意して数日経った仕事帰り。

 職員専用口を出て歩いていると、駐車場の自分の車の前でこちらに向かって手を振る柊矢さんの姿が目に入った。

 ハッとした私は、近くに橋野店長と早乙女さんがいないかキョロキョロと周囲を確認し、柊矢さんに歩み寄る。

「お疲れ様です」
「タンブラーのお礼に酒でもご馳走するよ」

 乗って、と言い、柊矢さんは助手席のドアを開けた。

「そんな、わざわざお礼だなんていいですから。ていうか、そもそもタンブラーがお礼だったのに、更にお礼し合ってたらキリがないですよ」

 私の言葉に柊矢さんは肩を揺すってクスリと笑う。

「たしかにそうだね。じゃあ、やり直すよ」

 助手席のドアに手を掛けた柊矢さんは、僅かに小首を傾げた。

「一緒に飲まない? きみをもう一度口説きたいんだ」

 柊矢さんの目はまるで光線のように私を射抜く。
 そんな強い眼差しで見つめられたら、頷く以外の術をすべて忘れてしまう。

 ギュッと心臓を鷲掴みにされたみたい。
 しどろもどろになりながら、私は心ばかり頷いた。
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