凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「そうだと思ったよ。よいこらしょっと」

 心得顔で言いながら、祖母は上半身を起こす。

「おばあちゃん、起きて大丈夫なの!?」

 手術で切ったお腹が痛いのではと心配した私をよそに、祖母は真剣な顔つきで口を開いた。

「このくらい大丈夫。紗衣、これはあなたのお母さんから預かったものなんだよ」
「え、お母さんから……?」

 私が生まれて間もなく父と離婚した母は、私が高校生の頃に病気で亡くなった。闘病期間が長かったので、私はほとんど祖母に育てられたと言っても過言ではない。

 健康診断で祖母にポリープが見つかったのは三年前。それが少しずつ大きくなり、悪性だと予後が悪いとかかりつけの町医者からいよいよ手術を勧められ、若月総合病院を選んだ。

 ポリープは病理検査をしないと悪性かどうか判断できないとのこと。腫瘍マーカーの数値的にはおそらく心配いらないそうだけど……。
 また母のときのように、大切な人を失ってしまうんじゃないかって。

 本当は私、怖くて怖くてたまらない。
 
「紗衣のお母さん、麻美子(まみこ)が結婚するときに、おばあちゃんがあげたものなんだよ」

 思い詰めた表情で箱を見つめていた私はハッとして、穏やかな声色の祖母に目線をずらす。

「そうなんだ。開けてもいい?」

 祖母が頷くのを確認して、私は箱の蓋を開けた。
 中には薄いグレーのジュエリーケースが入っていて、開けてみると上品に艶めいた真珠のネックレスが収まっている。

「綺麗なネックレス……」

 小さな粒の真珠は、柔らかい光沢を放っていた。

「そうでしょう? 紗衣にもよく似合うと思うよ。最近ますます麻美子に似てきたから」

 祖母が懐かしそうに目を細める。母の若い頃の写真を見ると、私は母似なんだなと自分でも感じた。
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