凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「場所は任せてもらえるかな?」

 乗り込んで、シートベルトを着用した柊矢さんが私に目配せをする。

「はい」
「よし、じゃあ出発」
 
 日が長くなったとはいえ、すっかり暗くなった街中を柊矢さんの愛車は颯爽と走り抜ける。

 どんなお店に連れてってくれるんだろう……。
 窓の外を流れるネオンが綺麗で、柊矢さんとふたりきりのドキドキとワクワクが相まって、私は胸を踊らせた。

 しばらくして、柊矢さんがウインカーを上げたのは高層マンションの前だった。
 まったく予想もしていなかった私は、ぽかんとその建物を見上げた。

 ここって……お店じゃないよね?

 私の頭上にともる疑問符に気がついたのか、緩やかにハンドルを切って地下駐車場に入った柊矢さんが口を開いた。

「俺の家なんだ」

 一拍間を置いて、私は目をしばたかせる。

「えっ……、ご、ご迷惑じゃないですか?」

 想定していなかった場所に来て、私はシートベルトで締め付けられた胸がバクバクとうるさくなるのを感じた。

「全然。むしろゆっくりくつろげるかと思って。紗衣さんも遠慮はいらないから」

 駐車して、運転席を降りた柊矢さんに倣い私も降車すると、柊矢さんの半歩後ろをついて歩く。

 高級感のある落ち着いた雰囲気のロビーにはコンシェルジュが常駐していて、その豪華さに驚いた。
 ……なんだかすごく場違いなところに来てしまったようだ。それに。

「あの、でも……」

 エレベーターに乗り込み、言いよどむ私を見て、柊矢さんは意地悪に片眉をぴくりと上げた。

「もしかして、こないだ俺が忠告したから警戒してる? 素直で可愛い」

『俺が来てなかったら家に連れ込まれてたかもな。もっと警戒したほうがいいよ』

 先日橋野店長にご自宅に誘われたとき、柊矢さんから言われた台詞が気になっている私は言い当てられ、恥ずかしくて俯く。
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