凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「私も家で作ってみようかな」
「気に入ってくれて嬉しいよ」

 隣り合って座り、肩が触れ合いそうな近距離にソワソワしていたら、不意に左側が重くなった。

 柊矢さんがこつんと私の肩に寄りかかってきたのだ。

「実は、当直明けなんだ」

 いつもより少し気怠げな声で呟くと、柊矢さんは甘えるように私の肩に頭を擦り付けた。

「え、それじゃお疲れですよね」

 鼓動が正常じゃなくなってきて、声が上擦った。
 柊矢さんと触れ合っている左の体半分がどんどん熱くなってくる。

「私に構わず休んでください。ここからなら場所もわかるしひとりでも帰れます」

 ちょうどグラスも空になりそうだし、と思って腰を浮かせた瞬間。

「帰るなよ」

 パシッと乾いた音がした。

 中腰になった私の手首を掴んだ柊矢さんは、上目遣いで私を睨むと不本意そうに続ける。

「やっとふたりきりになれたのに」

 切なげな眼差しで見つめられ、私はぴたりと静止した。
 動けなくなったのだ。心臓をギュッと掴まれて。

「紗衣」

 ぴくりと肩が小刻みに揺れる。

 柊矢さんに手を引かれ、私は再びソファに腰を下ろした。

「って、呼んでもいい?」

 漆黒の瞳は、狼狽する私を射抜く。

 心臓がデタラメなドラムみたいにうるさくなって、私はこくりと小さく頷くのが精一杯。

「紗衣、おいで」

 緊張で硬直していた私の体はいとも簡単に、柊矢さんの胸元に引き込まれた。

 柊矢さんは大きな手のひらで、膝に真向きに座らせた私の頬を包み込む。
 僅かに首に角度をつけた柊矢さんとの距離が更に縮まり、唇が重なった。

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