凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「紗衣」

 柊矢さんの私を呼ぶ優しい声が、遠くのほうで反響して聞こえる。

 おかしいな、すぐ近くにいるはずなのに……。

 目蓋が重くて反射的に目を閉じる。
 ぴったりと体を預けた柊矢さんの呼吸音と、自分の鼓動だけが聞こえる真っ暗な世界は、とても心地よい。

 柊矢さんと息を合わせ、ゆったりと呼吸する。

「紗衣?」

 意識を失う直前に耳に届いた柊矢さんの声は、困惑を含んでいるようだった。

 どれくらい目を瞑っていただろう。
 自分の感覚ではほんの一瞬のつもりだった。

 けれども私が次に気がついたとき、場所はソファの上ではなかった。

「……あ、れ?」

 見慣れない天井に目をしばたかせる。

 えっと、たしか柊矢さんが作ってくれたカクテルを飲んで、それからソファに移動して……。
 そこまで自分の行動を回想し、途端に顔面から火が出るくらい熱くなったので、私は思考を停止させる。

 キョロッと眼球だけを動かして周りを確認すると、ちょうど目に入ったドアが静かに開いた。

「起きた? おはよう」

 ドアの向こうから顔を出した柊矢さんは、ふわりと穏やかに笑う。

「し! しゅっ……」

 柊矢さん!

 驚いて口がうまく動かない私は、起き抜けの頭をなんとか働かせて機敏に起き上がる。

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