凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 数日後、祖母が外来で検査結果を聞く日がやってきた。
 朝から気が気じゃない私は、休憩時間になったらすぐにスマホをチェックしようと決め、テーブルを拭く作業をしていた。

 人影が目の隅に入り、入店されたお客様に振り向いて笑顔を向けたとき。

「いらっしゃいませ……って、おばあちゃん!」

 目尻のシワを深くして微笑んだ祖母がすぐそばに立っていた。

「診察はもうとっくに終わってたんだけど、入院病棟に顔を出しに行っててね」

 祖母の声色は明るい。

「それで、ええと……」

 聞きづらくて口ごもらせる私に、祖母は優しく頬を綻ばせた。

「検査結果は良性だったよ」
「ほんと⁉ 良かったー!」
「紗衣には心配かけたね。いろいろありがとう」
「ううん、そんな……いいのよ」

 本当によかった。
 仕事中だということを忘れ、胸に手をあててホッとする。

 叔父さんにはもう伝えたのかな? きっと安心して、喜ぶだろうな……。

「おばあちゃん、せっかくだからバウムクーヘン食べていかない?」

 声を弾ませてレジに誘う。
 しかし祖母は静止したまま、私の背後を見て目を見開いた。

「若月先生!」

 一際明るい祖母の声に、私は驚いて肩を跳ね上がらせる。
 即座に振り向くと、コーヒーを買いに来た柊矢さんがタンブラーを片手に立っていた。

「松本さん、こんにちは」
「さっきはありがとうごさいました、先生」

 挨拶を交わすふたりを前に、私は気まずくて肩を竦める。

 柊矢さんに会うのは、柊矢さんを差し置いて眠ってしまった日以来。
 朝は朝食に誘われたけれど出勤時間に遅れそうなので断って、バタバタと車で家まで送ってもらった。
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