凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
『今度は我慢しないよ』

 前回伺ったときにそう宣言されているから、余計に動悸が激しくなる。
 私は紙袋を持つ手にギュッと力を込め、マンションのエントランスに向かって足を進めた。

『夜のドライブデートですか⁉ いいですね!』

 不意に早乙女さんの言葉が頭に浮かぶ。

 誘われてやっては来たけれど、これってデートなのかな。
 でも、彼女じゃないし……。だったらなんだろう?なんだかモヤモヤする。

「いらっしゃい」

 エントランスまで降りて待っていてくれていた柊矢さんに爽やかな笑顔で迎えられ、一瞬心の霧が晴れた。

「こ、こんばんは」

 ぺこりと頭を下げるのは、照れて赤くなった頬を隠すのにちょうどいい。
 ロビーを通り、部屋に向かう。

「仕事が終わるのが遅くなるなら迎えに行ったのに。迷わずに来れた?」

 エレベーターを降りて柊矢さんが言った。
 職場から一緒に車で来るのは噂話に繋がるリスクがあるので、私は仕事が長引くと言い訳してひとりで来たのだ。

「はい、地元ですし。大丈夫でした」

 こくりと頷く私の顔を、柊矢さんは覗き込んで玄関のドアを開ける。

「頬が赤くなってる。寒かったんじゃない?」
「いえ! こ、これは……」

 間近で微笑まれ、顔全体が紅潮するのは気温なんて関係なくて。

「照れてる? 可愛いな」

 絶対にわざと、知っていてからかってるよね……。

「俺を意識してくれてるんだ」

 俯いて口を結ぶ私を家に招き入れた柊矢さんは、クッと堪えるように笑った。

 早速意地悪な柊矢さんのペースに飲み込まれてる……。
 私は深呼吸をして姿勢をただした。

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