凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「あの、これ、少しですけど。よかったらどうぞ」

 手土産の紙袋を柊矢さんに手渡す。

「ありがとう。いただくよ」

 受け取ってカウンターに置いた柊矢さんは、すぐに両手を広げた。

「足りなかった。充電させて」

 状況を理解するのに、数秒を要した。

 手を広げた柊矢さんは、ぽかんと立ちすくむ私を見て僅かに小首を傾げる。

「仕事が忙しくて会えない間も、きみのことを考えてた」

 切なげに見つめられ、胸の奥がきゅんとする。

「私も、です……」

 微かに震える声で白状して、変なステップを踏んで弾みを付けた私は柊矢さんの胸にトンと体をぶつけた。

「ほんと?」

 問われて小刻みに頷くと、瞬く間に柊矢さんの腕にがっちりと抱き締められる。

「嬉しい」

 背中が軋むほど強く抱きすくめ、鼻先を私の肩に擦る。
 くん、と嗅ぐように息を吸われ、擽ったくてもどかしい。ドキドキし過ぎて全身が脈打っている。

「こないだの続きがしたい」

 耳元で囁かれた甘くて低い柊矢さんの声に、心臓がドクンと一際大きく高鳴った。

 さっきから、柊矢さんの胸の中で身動きが取れずに硬直している私は逡巡していた。

 柊矢さんに会えて、こうして温もりを肌で感じられて嬉しいと思う反面、どうしてもすごく悲しい考えが頭の中に募っている。

 私はただ、体を重ねるために呼ばれたの?って。

「紗衣」

 名前を呼ばれ、おずおずと顔を上げる。
 恐らく相手にも伝わるほど、不安を滲ませた私の表情を見て、柊矢さんが目を見開き、顔色を変えたときだった。

 部屋の中で電子音が鳴り響いた。
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