凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「ごめん」

 小さく呟いて、柊矢さんは私を解放するとカウンターに置かれた自分の携帯を手に取る。

 画面を目視し、私に片手を挙げて断りを入れると廊下に出て電話を受けた。
 薄っすらと聞こえる会話の内容から、仕事の件だと推測された。

「オンコールだ。病院からの呼び出し」

 電話を切り、私の前に戻ってきた柊矢さんは申し訳なさそうに続ける。

「残念だけど、続きはまた今度」
「お仕事ですから、気にしないでください」

 心ばかり微笑んだ私を、柊矢さんは眉を下げて見返した。

「またお預けだなんて、次こそは見境つかなくなりそうだよ」

 冗談交じりにまた私を狼狽させる台詞を言う。
 私は柊矢さんの思惑通りドギマギして視線を泳がせた。

 急いで病院に向かう柊矢さんに途中まで車で乗せてもらい、家に着いたとき、私は正直ホッとしていた。

 心の中の霧が、どんどん濃くなっている。
 私たちの関係に名前を付けるとしたらなんだろう、という疑問が頭の中を占拠している。

 恋愛経験が少ない私でも、さすがに直接聞くなんてナンセンスだとわかってる。

 付き合う、といった単語が出たことはない。
 私が柊矢さんの彼女だなんて、釣り合わないよね……。

『こないだの続きがしたい』

 私たちはそもそも体の関係から始まって。それがこの先も続いていくの?
 つまり、セフレってこと?私はただの都合のいい存在?

『またお預けだなんて、次こそは見境つかなくなりそうだよ』

 なんとなくそう気づいていたけれど、認めるのが怖かった。
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