凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「ううん! 違うの、おばあちゃん。……私、」

 言いかけた矢先、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
 廊下からリビングに通じるドアが開き、ひょっこりと顔を覗かせたのは叔父だった。

「おお、珍しい。紗衣、来てたのかい?」

 目を丸くした叔父が、咄嗟に言葉を飲み込んだ私のそばに歩み寄る。

「ちょっと体調悪くしたみたいで。休みに来たんだよね」

 祖母の言葉を聞き、叔父は私の顔を心配そうに見つめた。

「大丈夫かい? 紗衣。熱があるのか?」

 答えようとしたとき、今度はピンポンと、玄関のチャイムが鳴った。

「はいはい」

 返事をして祖母が玄関へ向かう。
 誰だろう、と私は叔父と顔を見合わせた。

 その直後、内容までは聞き取れないけれど、興奮気味の祖母の声がリビングに届いた。

「母さん、どうしたんだろう?」

 叔父が訝しげに目をしばたかせる。
 腰を上げ、祖母の様子を見に行こうとしたときだった。

「紗衣! 先生が来てるよ!」

 小走りでリビングに戻ってきた祖母が、気が動転したような調子で叫んだ。

 「せ、先生?」

 祖母の言葉を復唱した私は、卵粥が入った器をテーブルに置き、スローな動きでソファから立ち上がる。

 先生って……まさか。
 まさか、だよね。

 まだ本調子じゃない頭で私は様子を見守る叔父を残し、覚束ない足取りでリビングを出た。

 すると、私より先に玄関に戻ったエプロン姿の祖母の背中の向こうに、驚きの人物の姿が見えた。
 私は大きく目を見開いたままで静止する。
< 59 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop