凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 柊矢さんがいる左半分から順番に、体がぽかぽかと暖かくなる。
 私は乱れる呼吸を整えるために息を吐いた。

「こんなふうに優しくされたら、期待してしまいます」

 堪えていた気持ちが堰を切って溢れ出す。頬を伝う涙はくめども尽きない。

 もしかして、って思った時点で心は決まってた。もしもこのお腹に命が宿ってくれているのなら、私は迷いなく産むだろう。

 まだ出会って間もないけれど、誰よりもカッコよくて、気遣ってくれて優しくて、ときどき意地悪な柊矢さんに惹かれていて。

「柊矢さんにとって私はただの遊び相手でも、私は……」

 ずっと心細くて、不安で仕方なかった。
 ただの都合のいい存在だと認めるのが怖かったのは、柊矢さんを本気で好きになってしまったから。

 涙を手で拭うと、柊矢さんは私を抱き締めた手で、私の頭をポンポンと撫でた。それはまるで、子どもを落ち着かせるような柔らかい仕草だった。

「俺は、最初から本気だよ」

 そして抱き締めていた腕を解放し、私の滲む視界を奪って顔を覗き込むと、きっぱりとした口調で続けた。

「紗衣を遊び相手だなんて思ったことはない」

 眼差しは力強く、目を真っ赤にしたであろう私を捉えて揺るがない。

「なにも心配はいらない。不安にさせて悪かった」

 心苦しげに言って、柊矢さんは私の頬に伝わる涙を指先で拭うと切なげに目をすがめた。

「紗衣、好きだよ」

 まるで言い聞かせるかのように優しく語尾を上げた柊矢さんに驚いて、涙が止まった私は硬直する。
 私の頬を両手で包み込み、見つめる柊矢さんの瞳は包容力に溢れていた。
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