凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「あの、もしもし」
「紗衣? なにかあった?」

 電話越しの柊矢さんの張り詰めた声に、胸がキュッと掴まれて苦しくなる。

『俺は、最初から本気だよ』

 昨日の柊矢さんの言葉はどれもとっても嬉しかったから、言い出しづらい。
 私は深呼吸をして、胸にあてた手を強く握り締めた。

「実はその、誤解だったみたいで……」
「え?」
「きたんです、生理」

 しばらく返事がなく、空白の時間が続く。たぶんほんの数秒だけれど、それが途方もなく長く感じた。

「早とちりして、本当にすみませんでした! それにお忙しいのに、急いで電話をもらってしまって」
「いや、紗衣が謝ることじゃないよ」

 優しい声で言った柊矢さんは、「そうか」と続けた。
 低くて穏やかだけれど、少し翳のある声だった。

「それで今は、体調はどう?」
「はい、大丈夫です」

 気を取り直して明るく言った柊矢さんに、私も倣って元気に答える。

「たぶん寝不足と、貧血だったと思います」
「貧血?」
「はい、前に献血でヘモグロビンが足りなくてできないことがあったので、たぶん慢性的になんじゃないかと思います」
「そうか。食生活を見直さなきゃな」
「あ、はい……」

 お医者さんに言われるとなんだか深刻な気分になる。今まで放っておいたことを反省しなきゃ。

「今週はちょっと忙しいから来週末、都合良かったらデートしよう」
「はいっ」

 暗い気持ちになっていた私はデートというキラキラしたフレーズに胸をときめかせた。

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