凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「まあ、昔はいろいろあったけど今はお互いいい大人だからね。普通の対応はできてるよ」

 口角をクイッと上げた柊矢さんは、腕を組んでフッと笑った。

 そうなんだ……。
 橋野店長の噂話を信じて後継者争いがあるのかと思っていたけど、そうでもないみたい。

「あまり噂を信じ過ぎるなよ」

 と柊矢さんに釘を刺され、私は肩を竦めた。

 焼き色が付いたハンバーグを一旦取り出し、デミグラスソースを作ったフライパンに戻して煮込む間、私は持参した紙袋から茶色い箱を取り出した。

「柊矢さん、あの、これ……」

 控えめな声で言い、その箱を柊矢さんに差し出す。

「え、なに?」

 突然の贈り物に意表を突かれたのか、柊矢さんは目を見開いた。

「割れにくい食器セットです。あの、もしご迷惑でなければ使っていただけませんか?」

 それはガラスと樹脂を合わせた新しい素材で作られた、お皿とお茶碗、マグカップなどのセット。
 黒くてデザインもカッコいいので、オシャレなカトラリーを集めるのが趣味な私も家で愛用している。

 箱を受け取った柊矢さんは、食器セットを渡されたことに戸惑っているのか、ぽかんと静止したままだ。

「えっとあの、昔医療系のドラマで手術するお医者さんは手を大事にするって見たので、割って怪我をしないようにと思って……」

 恥ずかしながらドラマの受け売りを披露する。
 この前カクテルをご馳走になったとき、そもそも食器自体少なかったなと思って持参したのもあるんだけど、やっぱりいきなり好みの食器をプレゼントするのって差し出がましかったかな……。

 柊矢さんが黙ったままなので、不安な思いがどんどん大きくなる。

「あの……、柊矢さん?」

 おそるおそる顔を覗き込む。すると、無表情で固まっていた柊矢さんがいきなりパッと手のひらで口元を覆った。

「あ、ごめん。反応するのに時間がかかった。なんかあまりにもその、嬉しくて」

 くぐもった声で言った柊矢さんは、照れたように視線を泳がせた。
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