凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「ありがとうございます!」

 すっかり見惚れていた私は慌てて対応する。

「こないだ淹れてもらった豆の名前、なんだっけ?」

 言いながら、女性が背後を振り返った。

 「ねえ、柊矢」

 その一言に、ドクンと鼓動が強くなる。

 “柊矢”……?

 女性の美しさに釘付けになっていた私は、女性の唇から発せられた名前と、後ろから現れた人物に驚いて言葉を失った。

「ああ、あれは……」

 なんだっけ?と、柊矢さんが私に目で合図を送る。

 “こないだ淹れてもらった豆”って、私が以前柊矢さんの自宅を訪ねた際に手土産で持って行ったもの?

 聞きたいことが山ほどあるけれど、初対面であるお客様の手前、私はなんとか平静を装い作り笑いを顔に貼り付ける。

「ひょっとして、ブラックブレンドでしょうか?」
「あ、それです」
「大変申し訳ございません。ブラックブレンドは店舗でドリンク販売は行っておらず、テイクアウト豆のみの販売となります」

 事務的な口調で伝えると、女性は「そうなの」と残念そうに呟いた。

「あの、今日のコーヒーがコロンビアでして、ブラックブレンドにも使われていますし近い味わいかと思いますが、いかがでしょうか」

 私がそう提案すると、女性はパッと表情を明るくする。

「それじゃあそちらをいただくわ」
「かしこまりました、ありがとうございます」
「柊矢も同じものでいい?」

 女性に問われた柊矢さんは頷いて、「テイクアウトでふたつ」と私に告げた。
 ふたりの関係が随分親しそうに見受けられて、胸のあたりがモヤモヤする。

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